良質の『生』の落語を

東京かわら版 寄席演芸年鑑1999年版 掲載 

  鄙びた土地ながらも志は高く、一言でいえばそんな地域寄席が「小牧落語を聴く会」です。名古屋市から電車とバスで一時間弱、駅前には立派なシティホテルヤショツピングセンターが建ち、決して所謂「鄙な」街ではありませんが、ナマの落語鑑賞という観点からすれば、東京・大阪を離れれば日本中が鄙びた地域。なかでもここ中京地区は、東京と大阪の中間という絶好の地の利をもちながら、「名古屋飛ばし」は新幹線に限ったことではなく(昔のことでしたネ)、落語についても例外ではありませんでした。
 そんな地域のひとつである小牧市に、「高い志」をもって落語好さの素人が手弁当でこの会をスタートさせたのが平成元年のこと。以来、大ホールで開かれる食傷ぎみの名人会や押し付けぎみの「聴く会」とは一線を画した企画・運営をつづけへ今年11年目を迎えました。
 決して興行としての採算性に奔らず、またテレビやラジオの人気落語家(というほど巷で落語は流行っているわけぢゃないですね)にすがる姿勢も微塵もなく、「伝統話芸の継承」をことさらに標榜するわけでもなく、レギュラーとしての特定の噺家さんにおもねるということもなく、古典落語一辺倒でもなく、噺家さんとの打ち上げと称する飲み会などもなく(仲人りの時噺家さんとツーショットで写真におさまろうというお客さんはいます)、ひたすら良質のナマの落語をこの地域のみなさんに楽しんでもらおうと考えて、続けてきました。
 そんな会ですから、米朝門下の俊才桂吉朝さんのハメもの入りの狭演会があったり、東西の若手・林家たい平さんと林家染二さんの共演、桂雀三郎さんのアルカリ落語三連発の会(本人も「新作ばっかり3本とはあんたたちも好きねえ」と驚く)、笑福亭福笑さんのキレぎみの創作落語(当会では人気人気)、志ん橋さんや正朝さんの古典落語はもちろん、志らくさん・喬太郎さん・市馬さん・円太郎さんといった東京の若手、雀々さんや小染さんといった上方落語の会など、多種多様な、地の利を存分に生かした会で、ファンの皆さんに喜んでいただいています。
 要するに、「次の世代の名人・上手の若い頃の高座を今聴いておこう、記憶にとどめておこう」という会といってもいいかもしれません。そんな我々世話人の意気を理解していたださ、毎回小牧市はもちろん近隣の街、岐阜県や三重県遠くは静岡県からも足を運んでくださる方がおみえになるのは、我々世話人にとっては大きな励みでもあります。
 わずか40回にもみたず、地域寄席の老舗といわれることに内心忸怩たる思いを感じながらも、日本一の地域寄席めざして、年4回というゆっくりとした歩みではありますが、確かな歩みを続けていくつもりです。(柴田竹朗)